『見やすいカタカナ新語辞典』という外来語辞典です。
私の母は、今年で82歳になります。生まれ年で言えば、昭和9年生まれです。
戦中・戦後の混乱もあり、母は、中学校には入学して半月しか行っていません。
ですから、学歴で言えば、小学校卒ということになります。
戦時中に小学校に行った母は、小学校でも、奉仕活動や訓練ばかりで、勉強という勉強をした記憶はあまりないようです。
学歴という点では、時代の運命に翻弄され、まったくの無学です。
でも、母は、独学の天才で、私が小さいころから、幼い私にいろいろと勉強を教えてくれました。
今でも新聞をよく読み、調べ物が大好きな母です。
そんな独学の天才の母も、英語やローマ字は全然ダメでした。
私が子供のころ、母は、アルファベットも順番に言えないようでした。
私が中学1年生になったときに、母がローマ字を教えてほしいと頼んできました。
私は、喜んで教えてあげました。
とは言っても、まったくアルファベットもよく知らない母に、ローマ字を教えるのはなかなかの難題でした。
分かりやすく説明したり、面白い教材をお小遣いで買ってきたり、学びやすい練習問題を自分で作ったり、工夫を重ねました。
私の指導好きは、この辺りが原点なのかもしれません。
母は、みるみるローマ字を習得し、すらすら読み、すらすら書けるようになりました。
私が高校生くらいになって、びっくりすることを発見しました。
母は、中学1年の私からローマ字を習ってから、ずっと5年以上も、家計簿をローマ字でつけていたようです。
買った店や買ったものなどをすべてローマ字で記録していました。
市販の家計簿を使わず、大学ノートに、自分で線を引いて、すべてローマ字で書いていました。
母は、やはり独学の天才だなあと思いました。
時は30年ほど経過して、つい2年ほど前、母と一緒にブックオフに行きました。
母は、珍しく辞書コーナーに行き、一冊の辞書を嬉しそうに手に持っていました。
『カタカナ新語辞典』という外来語辞典でした。
「最近は、テレビなどで知らない外来語がいっぱい出てくるから、これで調べる。」と母は言いました。
それから、母は、テレビなどで、外来語が出てくるたびに、その辞書を開いていました。
一日に何度も何度もその辞書を引いていました。
でも、その辞書は、1989年に出版されたものでした。古本屋のブックオフで買い求めたものなので、当然と言えば当然なのですが、母は、特に出版年をチェックせずに買ったようでした。
もう25年以上まえの辞書なので、当然、最新の外来語は載っていません。特にインターネットやテクノロジー系はまったくと言っていいほど、載っていません。
私はすぐにでも新しい外来語辞典を買ってあげようと思ったのですが、せっかく母が自分で辞書コーナーに行き、毎日十回以上も引いている辞書を、私が否定するのもよくないと思い、2年近く見守っていました。
インターネットやテクノロジー系の外来語は載っていなかったようですが、それ以外の外来語はかなり収録されていて、母はそれなりに満足のようでした。
先日、母が、「この辞書に載っていない外来語がたくさんあるね。」と私に言ったのを機会に、最新の外来語辞典を母にプレゼントしてあげることにしました。
私は、大規模な書店に行って、いろいろな外来語辞典を手に取ってみて、82歳の母に最も適したものを探しました。
探し当てたのが、上の画像の『見やすいカタカナ新語辞典』です。
出版年は2014年9月第1刷の三省堂の最新刊です。
この外来語辞典は、文字がとても大きく、高齢者にもとてもフレンドリーなレイアウトとなっています。
母は嬉しそうに、新しい辞書をあちこち開いて見ていました。
母は寝る前に、新しい辞書をリビングルームのテレビの横に大切そうに置いて、古い辞書を自室の本棚の下の方に片づけていました。
そんな母を見ていて思いました。
学びはいつでもできる。
学びはいつまでもできる。
学びはちょっとした刺激や助言があれば、一気に加速される。
私自身は、母より「高学歴」です。
両親の激励や援助で、大学院は日米で3つも行きました。
でも、いつも母には、学ぶとはどういうことかを教わっています。
息子だから母親から学ぶ、というよりは、母からは教育の在り方を学んだような気がします。
私が学ぶことが大好きなのは、やはり、母の影響なのでしょう。
私が教えることが大好きなのも、やはり、母の影響なのでしょう。
昨日、プレゼントした一冊の外来語辞書には、私のそんな感謝の想いが籠っています。
私が幸運にも82歳まで生きることができたとして、母のように学びの姿勢を保っていることができるように、これからも日々精進しなければいけないと痛感しました。
自分の学びのルーツ、教育者を志した原点を知っておくことは大切だと思います。
私にとっての学びのルーツ、教育者を志した原点は、母とのやり取りでした。
今年で82歳になる母に感謝しながら、学習と教育について、これからも追い求め続けていきます。
では、また明日!!
広島教採塾
河野正夫
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